2022/09/30 15:50

先日、仙丈ヶ岳の地蔵尾根を日帰りで登ってきた。コースタイムは16h、累積標高は2200m以上、距離も往復25km以上あるロングルート。

天気は快晴、半袖のMT Cotton T-shirtと短パンでスタート。この地蔵尾根はみんな大好きTJARの南アルプスの玄関口、選手が踏みしめた道に思いを馳せながら登っていく。

道中は森林が美しい、なだらかな道が続く。破線ルートのため、一般的な登山道よりは不安定な部分もあるが、特に難しい箇所はなくグングン登っていく

樹林帯は湿っとしていて、汗はかくが、秋の涼しいそよ風は、Tシャツを適度に乾かしていく。

ところどころ植生が変わる森林を楽しみながら、そろそろ稜線という頃にはTシャツはほぼ乾いている状態。コットン特有の心地よい肌触りからくる保温性もあり、秋の山でも、とても快適だ。

長い長い登りを終えて、北沢峠から登ってくる人たちと合流し、賑やかな山頂へのビクトリーロード。地蔵尾根から登ってきた達成感に浸りながら山頂を踏んだ。

山頂は引き続き快晴、風も穏やかな中、バックパックを降ろしてしばし休憩。背中の汗も、5分もしないうちに完全に乾いた。



先日、神保町の古書屋で何十年も前の岳人の装備特集を眺めていた。そこに書かれていたのは、ベースレイヤーは「ウール」か「コットン」。もちろん化学繊維は存在しない時代なので、ポリエステルなんて言葉は出てこないのだが、そこで思ったのは、なんでコットンは山の世界から葬りさられてしまったのかということ。

ウールは動物由来、コットンは植物由来、製造には時間もコストも当然かかる。一方ポリエステルは石油由来。石油で作る糸は品質が安定し、安価で大量生産も可能である。弱点の臭いに関しては薬剤でカバーできる。

これは個人的な見解だが、やっぱりメーカーは利益を追求するわけで、あえて乾きが悪いとされて、製造に手間がかかるコットンを選ばずに、低コストのポリエステルを選ぶのは普通に考えれば想像できる。



僕は雪山を始める時に、今はなき秋葉原の登山道具店ニッピンで開催された雪山講習会に参加した。その時の講師はエベレストを登りまくっている有名な国際山岳ガイドの近藤謙司さん。雪山講習会なので、やはり最初に重要視してお話されていたのがベースレイヤーの話。当然ウールということになるのだが、近藤さんはこうもおっしゃった。一言一句は記憶として曖昧なのだが、「僕はウールじゃなくてコットンでヒマラヤも登れる。自分の中の装備をしっかり理解し、考えられるリスクとして許容できれば問題ないです。」この時は、僕もコットンは山で絶対NGと思い込んでいたので、正直、ピンとはこなかった。

三鷹のHIKER'S DEPOTの土屋さんとも何度かお話しする機会があったとき、「昔の人はみんなコットンだったんだよね〜」とおっしゃっていた。



仙丈ヶ岳からピストンで登山口に戻る長い道のり。すぐ乾くコットンを身に纏いながら、想いにふける。

顔をふくタオル、シーツなどの寝具、赤ちゃんが着る服、直接肌に触れるものは、ほとんどがコットン。みんなコットンの快適さをわかっているのに、「登山ではNG」とステレオタイプされてしまっていることにどうにももどかしさを感じた。

誤解を恐れずに言えば、ポリエステルは言うなればプラスティックみたいなもので、海洋汚染の問題にもなっている。

化学繊維の有用性は登山では必要だし、自分も使っていて、その恩恵を受けているわけで、否定するつもりは全くないが、盲目的にポリエステルを選ぶのではなく、昔の登山者は普通に着ていたコットンをもう一つの選択肢として選んでほしい。

近藤さんがおっしゃった「考えられるリスクとして許容できれば問題ない」という言葉は、ベースレイヤーだけに関わらず登山という行為全てに言えることだと思う。道具も、山登りという行為自体も、自分で判断し、選んでいくことが重要ではないかと思う。


※写真は仙丈ヶ岳地蔵尾根。雲に隠れてまだまだ先は長い。

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